#23 陸に上がった釣り人
2011年 05月 29日
釣れない日というものはある。どんなにがんばっても釣れない。岩手全体を覆う雨雲の下から抜け出して、秋田まで足を伸ばしたというのに釣れない。
以前だったら、それでも夕闇にからだが包み込まれる頃まで、幽者のごとく川辺を彷徨っていたものだが、近頃のぼくたちときたら。
「釣れないねえ」
「上がりますか」
「あったかいコーヒーでも飲んで帰ろうか」
そそくさとウェーダーを脱ぎ、ロッドをたたみ、ぼくたちは街の名所に向かい、まるっきり観光客のような顔をして、喫茶室でくつろぐのであった。
こんなことではいけない、季節は始まったばかりというのに、これじゃいけない、釣り人として失格である、と友人の運転する車の後部座席でうとうとしながら、そうおもっていた、ような気がする。
by flybito
| 2011-05-29 01:26
| エッセイ